学会紹介

理事長挨拶

2023年12月17日に開催された大学入試学会発起人会(設立総会)で初代の理事長に選任されました。就任にあたり,一言ご挨拶申し上げます。

大学入試学会の設立について知人に話すと「これまでなかったの?」と驚かれることがあります。身近な問題のそれぞれに対して学問的なアプローチを行う「学会」が存在するのは,現在では当たり前なのかもしれません。大学入試と言えば,誰もがそれなりに大切だと思って関心を寄せる社会的イベントです。それにもかかわらず,これまで学術研究の視野に入らなかったことを,意外に思われるのでしょう。一方で,「学会」と聞くと,象牙の塔にこもった学者さんたちが小難しい話をする場所で,「自分には関係ないのでは?」というレスポンスが返ってくることもあります。たしかに旧来の典型的な「学会」には,職業的研究者以外には近寄りがたいイメージがあるかもしれません。

「大学入試学会」は,大学入試という身近な社会制度の中で起こる具体的な問題に対して,一つひとつ解決する知恵を産み出す場を作りたい,という思いで立ち上げたものです。したがって,私たちの関心事は,今ここで起こっている出来事であり,それに携わる様々な立場の人たちです。つまり,これから学会を舞台として作っていく「大学入試学」は,様々な基礎学問を基盤として,現在の問題を解決することを目的とした応用学問です。

日本の大学入試の特徴は,個々の大学が入学者を決める権限を持っていることにあります。この仕組みはとても重要ですが,従来,各大学の制度設計に携わるエキスパートを育てて送り出す場が乏しかったのは事実です。若い研究者に魅力的な分野だと感じてもらい,現実的なキャリアパスを描けるようにしたいと考えています。そのための学術大会,学会誌を大切に育てていきます。現在,日本の大学入試制度は極めて複雑で,受験生を送り出す側の高校にあっても教員の中から進学指導のエキスパートを育成しなければ太刀打ちできません。高校教員がそれに関する研鑽を積む場も必要です。そのために,学会の中には大学や高校の組織が団体で加盟する「協議会」の仕組みを作ることにしました。「大学等協議会」「高等学校等協議会」という団体組織の中で,情報管理が行き届いた環境の下,会員相互の研鑽,情報交換を行います。さらには,二つの団体の共同事業も展開していきます。将来的には,国際社会の中で国境を超えて,様々な人が学ぶ場としての大学を想定した仕組みづくりも構想し,全国レベルの大学入試制度の構築に貢献できる組織へと発展させていきたいと願っています。

大学入試学会は誕生したばかりの組織です。何ができるのか手探りのスタートとなりました。この分野に関心を持つ多くの方々に支えていただくことによってはじめて,ダイナミックな活動が可能になります。立脚する基盤が異なれば,具体的な問題に関する見え方が違うのは当然のことです。互いに矛盾する「原則」を現実的な制約条件と照らし合わせて,最終的に現実の制度に反映させなければなりません。そこに大学入試の難しさがあり,ハイブリッドな応用分野としての意義も見出せるはずです。

様々な立場の皆さんからの温かいご支援と積極的な参画をお待ちしています。

2023年1月18日

理事長 倉元直樹

設立趣意書

わが国の大学の歴史が明治期に始まって以来、大学入試は受験者にとっての重大事であると同時に国民的関心事でもあります。その結果,常に論争の種ともなってきました。誰もが自身の経験に基づいて議論に参画できることは素晴らしいことである反面,難しさも伴います。多様な教育環境や時代の変化と人々の認識との間にギャップが生まれるからです。

大学入試という用語は,日本の制度に深く根差したことばです。諸外国では,大学入学者の決定は必ずしも試験に基づくわけではありません。現に日本の仕組みも変わりつつあります。その中で,あえて,「大学入試学会」を標榜するにあたっては意図があります。

第一に,本学会の中心課題は現実の制度です。もちろん,純粋に学問としてこの分野を追究する研究者は必要不可欠な存在です。しかし,本学会が学術的価値だけを志向しても社会で求められる価値は生まれないでしょう。本学会を新設する意義は,大学入学者選抜において現在の日本社会の在り方と密接にかかわり,よりよい未来を導く知恵を産み出すことにあります。そのため,なじみのある言葉で本学会を表現したいと考えました。

第二に,大学入試の分野はこれまで学術研究の対象とは見なされてきませんでした。多くの若者の人生を左右する重要な制度でありながら,学問的根拠や証拠に基づく制度構築がなされてきたとは言いがたいのが現状です。本学会は,入試制度や選抜方法はもとより,大学入試の周辺にある様々な課題を研究対象として可視化することで,教育関連分野における大学入試のアカデミックな価値が認知され,制度の説明責任(accountability)が向上されることを目指します。

第三に,日本の大学入学者選抜制度の最大の特徴は,各大学に自らが教育する学生を選び,入学を許可する権限が付与されていることです。行政は基本的なルールを決めますが,そこに加える工夫は各大学に任されます。近年,各大学には「アドミッション・センター」等と称される入試の専門部署が設置されるようになりました。アドミッション・センターに適切な意思決定に寄与する専門家を配置することは,大学の浮沈を左右する重要な鍵となるでしょう。本学会は,個別大学の入試を支える人材が誕生し,アカデミックな研鑽を積み,キャリア形成する場を提供します。

大学に受験生を送り出す側からは,各大学の入試が,教育の実情を反映し,支援するような仕組みであることが必要です。少子化に伴い学生集団の多様化が進む中,わが国の大学教育の水準を支える最大の母体は高校です。高校と大学が互いの現場の実情を認識し,より良い制度設計に向けて,互いの知恵を持ち寄る場が必要です。本学会は,個人会員の集まりである学会本体の下に,大学関連団体及び高校関連団体の協議会をそれぞれ設置し,情報管理が保障された環境下で会員団体相互の研鑽や情報交換の場を設けます。また,大学関連組織の協議会と高校関連組織の協議会との間の共同事業も展開します。

国際社会の中で国境を超えた人の往来がますます活発になり,日本の大学も今まで以上に様々な背景を持った人が学ぶ場となることでしょう。来るべき新しい時代を迎えるために,現在のわが国の大学入試の仕組みについて,学問的知見の伴ったエビデンスを基に改善のサイクルを作り出すことが本学会の使命と言えます。その上で,近い将来,それぞれの事情を抱えて独自に発達してきた諸外国の制度とのつながりを築いていく仕組みが産み出されるでしょう。

これらの趣旨に賛同され、この問題に関心および関連を持たれる方々には、ぜひご参加いただき、この分野の今後の発展に貢献くださるようお願いする次第であります。

2023年10月2日

学会役員

理事長  倉元直樹(東北大学)
副理事長 中村高康(東京大学)
理  事 小泉利恵(筑波大学)
     駒形一路(東北大学)
     立脇洋介(九州大学)
     田中光晴(文部科学省)
     永田純一(広島大学)
     中村裕行(愛媛大学)
     西郡 大(佐賀大学)
     牧野 周(東北大学)
     宮本友弘(東北大学)
     脇田貴文(関西大学)
監  事 鈴木 誠(北海道大学名誉教授)

 

組織図

会則・規程等

大学入試学会会則

大学等協議会規程

高等学校等協議会規程

賛助団体規程

大学入試学会個人会員規程